Masa’s Pastime

2013年02月10日

「力加減」 その2

さて、前回はアンティークウォッチ修復の現場において 「力加減」 が非常に大切、かつ曖昧だ、というお話しをさせていただいた。



実際、この 「力加減」 ほど、人に伝えるのが難しいものはない。



このくらいの太さのネジを、どのくらいの力で捻ったら頭が飛ぶか?



このくらいの太さのスプリングは、どのくらい曲がったら折れるか?




以前、建造物における構造体の強度を研究しているお客様に聞いたところ、専門的にはこれを 「座屈」 と呼ぶらしい。



このくらいの太さの柱にどのくらいの加重が掛かったら折れるのか?



特に大型の建造物においては、これらをきちんとした理論で数字化し、部材の選定や構造設計に活かしているとのこと。



「なるほどなー」 と思った。




しかし残念ながら、、、これもアンティークウォッチの修復現場では、現実的な話しではない。



何しろ、接する時計の 「年代」 「仕様」 「材質」 「経年劣化の状態」 がてんでバラバラなのだから、、、。



「キミキミ、1750年製のイギリス時計のネジは、5kgの力で捻ってね。」 などという訳にはいかないのだ。




結局、それは全て個々の時計屋の 「感覚」 に掛かっている。



「折れるまで曲げるなよ」 と言ったところで、「どのくらいで折れるのか分らない」 と言われると、、、説明のしようがないのが実際のところ。




かつてパスタイムには、「時計師志望」 の若者が相当数通っていた。



殆どは時計学校の生徒達で、、、有り難いことに 「パスタイムで仕事をしたい」 と言う。



かといって皆に、「ハイ、どうぞ」 と言えるほどうちは大きくないし、、、それに、大勢の新入りに給料を払うほどの余裕はない。




結果、私はいつも皆に 「とにかく自力でちゃんと動くようにしてみな」 と言って 「ほどほどに壊れたアンティークのムーブメント」 を渡し、見込みのありそうな子に関しては考えてみようと思ったのだが、、、この時、分った。



「力加減」 の感覚は、「子供の頃の遊び方」 と関係が深いと。



勿論生まれつきの向き・不向きはあるだろうが、、、かなりの割合で、後天的に決まっているような気がしたのだ。




誰がどう考えても 「壊れるだろう」 といういじり方をする子がいる。



時計の知識も豊富で、学校でも熱心に勉強しているような子が、、、片っ端に壊してしまう。



そういう子達にそれとはなしに聞いてみると、、、ほぼ例外なく子供の頃に 「物を壊して」 いなかったのだ。




「竹とんぼ作り」 でも 「プラモデル」 でも 「お父さんの日曜大工の手伝い」 でもいい。



そういうことを普通にしてきた子は、知らず知らずに身体で知っているのだ。



こんな固さのものをこんなに曲げたら 「ボキッ」 と折れるな、と。




ゲーム遊びやパソコンに夢中だった子供は、経験していない。



だから 「壊れない程度に曲げろ」 と言っても、、、本当に見当が付かない。



結果、こちらが 「エーッ!?」 と、びっくりするような壊し方をするわけだ。




「半日掛かって完成間近になった部品が折れた」 前回の冒頭に、話しは戻る。



どんなに一生懸命やろうと、地道に頑張ろうと、、、壊れれば、最初からやり直し。



全ては無駄、と言った。




しかし本当は、一つだけ無駄でないことがある。



いや、せめてそう思いたい、、。




今まさに 「ボキッ!」 と折れた、スプリングの鈍い反動。



その嫌な感触を、間違いなくこの指先は憶えている。



そしてデータ更新された私の指先は、、、きっとこの先の 「無駄」 を、省いてくれる筈なのだ!


posted by Masa’s Pastime at 16:19 | Comment(0) | 新着情報
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