「ポキッ!」 「 おっと!、、、 あーあ、、、。」
9割方出来上がっていた細いスプリングが、、、完成間際で折れる。
削り出した面と面の角を砥石で落としている際、僅かに力を掛け過ぎた訳だ。
薄い 「鋼の板」 から 「髪の毛のような細長いスプリング」 を削り出すのに数時間。
その後、「焼き入れ・焼き戻し」 して、強度と粘りを確保し、、、そこから仕上げ研磨に入り、既に半日が経過。
しかしこうなれば全て最初からやり直し、、、まさに時間の無駄である。
この場合の失敗の原因はただ一つ。
そう、、、「力加減」 の誤りなのだ。
部品の製作に限らず、時計屋の仕事全般においてこの 「力加減」 というほど重要、それでいて曖昧なものはない。
先程のスプリングなどもそうだが、、、「何キロ以上の力をかけないように」 などというハッキリした数字の指標はなし。
要は、折れたら 「力の掛け過ぎ」 折れなければ 「許容範囲内」 という訳で、、、そういった部分は時計の各所に地雷のようにちりばめられている。
いや、、、むしろ、時計とはそういったものの塊と言えるかもしれない。
解りやすいところで言えば、「ネジ」。
時計には様々な 「太さ・形状」 の 「マイナスネジ」 が使われている。
ネジ本体と頭が同じような太さの 「ずん胴型」 、頭の直径が大きくてネジ本体が細い 「テーブル型」、、、中には 「機止めネジ」 のように頭の部分が 「半月型」 になっているものもあるし、「オシドリネジ」 のように頭が細く、その下の方にかけて大きな段差があったりするものもある。
これらのネジを締め付ける際には、それぞれのネジの仕様に応じた 「力加減」 が必要。
「ずん胴」 若しくはそれに近いようなものは比較的しっかりした強度があるが、 「角穴車のネジ」 や 「シャトン止めのネジ」 のような 「極端なテーブル型のネジ」 を同じように締め付けたら、、、ネジの頭はあっけなくもぎ取れ、「????」 となってしまうのだ。
以前、某有名メーカーで仕事しているスイス人がパスタイムを訪れた際に 「私達メーカーではスリップ機構のついたドライバーを使っている」 と言っていた。
確かに、それぞれのネジに応じてトルク設定されたスリップ機構付きドライバーを使用すれば 「締め付けトルク」 は一定するし、ネジの破損も激減する。
ご存知の通り、自動車や大型機械の組み立てではとっくの昔から採用されているし、今日び、日曜大工センターなどで売っている市販の電動ドリルにも備わっている方式。
これなら 「ゴリマッチョな技術者」 が渾身の力で閉め込んだネジも 「スマートな女性技術者」 がおしとやかに閉め込んだネジも、、、全く同一の力で取り付けられていることになる訳だ。
しかし残念ながら、これはうちでは使えない。
何故なら、「決まったモデル、一定のムーブメント」 ばかりを組み立てするメーカーの仕事と違い、、、アンティークウォッチの修復現場では、今日は 「100年前のアメリカ製鉄道時計」 明日は 「300年前のイギリス時計」 などとバラバラの仕様のものに手を付けることになるから。
「ネジの太さ、形状」 をはじめ、「時計のグレードやネジの輝きから判断される材質の良否」 「経年劣化の具合」、それから指先に残る 「過去の失敗データ」 等を総動員して、、、その都度 「力加減」 する必要がある訳だ。
(続く)
9割方出来上がっていた細いスプリングが、、、完成間際で折れる。
削り出した面と面の角を砥石で落としている際、僅かに力を掛け過ぎた訳だ。
薄い 「鋼の板」 から 「髪の毛のような細長いスプリング」 を削り出すのに数時間。
その後、「焼き入れ・焼き戻し」 して、強度と粘りを確保し、、、そこから仕上げ研磨に入り、既に半日が経過。
しかしこうなれば全て最初からやり直し、、、まさに時間の無駄である。
この場合の失敗の原因はただ一つ。
そう、、、「力加減」 の誤りなのだ。
部品の製作に限らず、時計屋の仕事全般においてこの 「力加減」 というほど重要、それでいて曖昧なものはない。
先程のスプリングなどもそうだが、、、「何キロ以上の力をかけないように」 などというハッキリした数字の指標はなし。
要は、折れたら 「力の掛け過ぎ」 折れなければ 「許容範囲内」 という訳で、、、そういった部分は時計の各所に地雷のようにちりばめられている。
いや、、、むしろ、時計とはそういったものの塊と言えるかもしれない。
解りやすいところで言えば、「ネジ」。
時計には様々な 「太さ・形状」 の 「マイナスネジ」 が使われている。
ネジ本体と頭が同じような太さの 「ずん胴型」 、頭の直径が大きくてネジ本体が細い 「テーブル型」、、、中には 「機止めネジ」 のように頭の部分が 「半月型」 になっているものもあるし、「オシドリネジ」 のように頭が細く、その下の方にかけて大きな段差があったりするものもある。
これらのネジを締め付ける際には、それぞれのネジの仕様に応じた 「力加減」 が必要。
「ずん胴」 若しくはそれに近いようなものは比較的しっかりした強度があるが、 「角穴車のネジ」 や 「シャトン止めのネジ」 のような 「極端なテーブル型のネジ」 を同じように締め付けたら、、、ネジの頭はあっけなくもぎ取れ、「????」 となってしまうのだ。
以前、某有名メーカーで仕事しているスイス人がパスタイムを訪れた際に 「私達メーカーではスリップ機構のついたドライバーを使っている」 と言っていた。
確かに、それぞれのネジに応じてトルク設定されたスリップ機構付きドライバーを使用すれば 「締め付けトルク」 は一定するし、ネジの破損も激減する。
ご存知の通り、自動車や大型機械の組み立てではとっくの昔から採用されているし、今日び、日曜大工センターなどで売っている市販の電動ドリルにも備わっている方式。
これなら 「ゴリマッチョな技術者」 が渾身の力で閉め込んだネジも 「スマートな女性技術者」 がおしとやかに閉め込んだネジも、、、全く同一の力で取り付けられていることになる訳だ。
しかし残念ながら、これはうちでは使えない。
何故なら、「決まったモデル、一定のムーブメント」 ばかりを組み立てするメーカーの仕事と違い、、、アンティークウォッチの修復現場では、今日は 「100年前のアメリカ製鉄道時計」 明日は 「300年前のイギリス時計」 などとバラバラの仕様のものに手を付けることになるから。
「ネジの太さ、形状」 をはじめ、「時計のグレードやネジの輝きから判断される材質の良否」 「経年劣化の具合」、それから指先に残る 「過去の失敗データ」 等を総動員して、、、その都度 「力加減」 する必要がある訳だ。
(続く)