Masa’s Pastime

2012年05月13日

「キズミ」

長いこと使ってきた 「キズミ」 が壊れた。



この12年ほど毎日使い続けてきたものが、、気付いたら割れてしまっていたのだ。




目に嵌める本体の部分は、べっ甲風のセルロイド。



透明な部分と茶色い部分が、まだら模様になっているタイプ。



一般的な黒いプラスティックのものと比較すると周りから適度に光が入って視野が明るく、、、、重量も極めて軽いから使い心地が良かった。




急遽、一般的な黒いものを使い始めたが、、、どうにも具合が悪い。



顔に当てる開口部の直径が大きすぎる上にちょっと重いから、、、、分解・組み立ての作業中に 「ポロっと」 落ちてしまうのだ。



「目からウロコ」 ならぬ 「目からキズミ」 ?



キズミに針金状のホルダーを付け、頭に引っ掛けているうちの連中には問題がないようだが、、、直接目に嵌める私には、非常に具合が悪い。




「キズミ」 は、時計屋が使う道具の中で最も使用頻度が高いもの。



普段は 「使っていること」 すら意識していない、体の一部のようなものなのだ。



仕方ないから、ローズウッドで出来た市販品を買って、好みの寸法まで開口部を削り落とすことにした。




壊れたキズミは、12年ほど前、ある老時計師から引き継いだもの。



いや、、「引き継いだ」 というのは、少々不正確か。



生前知ることのなかったその人は、同じ 「井の頭通り沿い」 で長年時計店を商っていたようだ。




ある日、近所の骨董屋のオヤジがヌーッと店に入ってきた。



見上げるような大男が、両手にいくつもの腕時計を持っている。



「これ、みんな修理して」 と彼。



「初心出しでもあったの?」 と私。



ちなみに 「初心(うぶ)出し」 とは、、、業界用語で、長年手付かずの素人さんの持ち物を一切合財買取りすることを言う。




彼は、興奮気味にまくしたてた。



「この先の前進座の近くでずーっと時計屋をやってたジイさんが、亡くなったんだよ。 そんでもって遺族から頼まれて、時計や貴金属を引き取ってきたんだ。 まだまだたくさんあったよー。 あっ、そうだ。 時計の修理道具や材料みたいのは俺いらないからそのままにしてきたけど、あんた、要るなら紹介するから見に行けば? 」



ということで早速、岩田と2人で見に行ったのだ。




その古い時計店には、材料や道具が確かに色々あった。

 

腕時計の交換用部品や、懐中時計用のガラスのセット。



その他大量のゼンマイや小道具類、、、皮バンド等。



そして、部品が飛んでいってしまわないようガラスの風防を取り付けた手作りの修理台の上には、、、あたかもつい先日まで使っていたかのように、そのキズミが置いてあったのだ。




つまりそのキズミは私が12年ほど使う前にも、おそらく相当長いこと愛用されていたことになる。



そう考えると、よくもったものだと思うし、充分に寿命をまっとうした、と言えるだろう。




何千個もの時計を見てきた、このキズミ。



本当に具合が良かったんだが、、。



どうやら新しいキズミに慣れるまでには、、、、まだまだ時間が掛かりそうだ。

懐中時計 東京 腕時計


posted by Masa’s Pastime at 13:22 | Comment(0) | 新着情報
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