この年末、初めて老眼鏡を買った。
周りからは 「凄く楽だよ」 と勧められながらも 「まだ俺は大丈夫だ!」 と頑なに拒んできたのだが、、、ここに至って、遂に落城したのである。
きっかけになったのは、メキシコから一時帰国している 「G」 だった。
「G」 は私のダイビング屋時代の後輩で、後にアメリカでも一年余り一緒に暮らした相棒。
もっとも後輩とは言ってもトシは一つしか違わないから、筋金入りのオジサンだが。
昨年暮れの29日、このGと私の長女の3人で、府中の市場に向かった。
この東京卸売り市場には築地直送の魚をはじめ、食肉、野菜となんでも揃っている。
私が長女を連れて正月用の 「カニ」 の仕入れに行くと言うと、かつて10代の頃にこの市場のマグロ屋をやっていたGは、そこで働く昔の仲間に会いがてら同行したのだ。
年末ということで、市場の中はごった返していた。
カチンカチンに凍ったマグロを、電動ノコギリで切り捌く男。
一抱えもある肉の塊を、大きな庖丁で切り分ける男。
大声で叫びながら、大量の野菜を売りさばくオバちゃん。
その中の、知った顔の連中に話し掛けるG。
皆しばし手を止め、懐かしそうに肩を叩いたり、30年ぶりにひょっこり現れた男に目を丸くしたりしていた。
一通り用が済んだ私達が出口に向かって歩いていると、、、食品の通路の一角で、何故か大量の 「老眼鏡」 を売っている老人が。
なかなかスタイリッシュ(?)なプラスティック製の眼鏡だが、どれも「¥580」 均一。
長女の手を引きながら通り過ぎようとしたところ、Gの足が止まった。
なにやら片っ端からかけてみていたと思ったら、、、5本ほどまとめ買いしているではないか。
「そんなに買ってどうすんの?」 と尋ねると、
「海に出た時に落としたり壊したりしてすぐになくなっちゃうんだよ。 不便で仕方ないから、安くて気に入ったのをみつけるとまとめて買っておくんだ」 とG。
ちなみに25年ほど前に私が時計屋になった少し後、奴はメキシコに渡り、、、以来カリオルニア半島の 「ラ・パズ」 という港町で、ダイビングサービスを運営している。
また、「クジラ」 をはじめとする海洋生物の生態の研究・撮影をライフワークにしていて、、、この数年NHKなどの海洋番組の映像を観ると、殆どと言っていいほど登場するようになったのだ。
「中島君も掛けてみたら? オジサン、とっくに老眼入ってるでしょ?!」
そうGに言われて、、、 「ものは試し」 と掛けてみた。
すかさず売り手のジイさんが、小さな字の並んだ何かの説明書のようなものをよこす。
「ガーン!」
ムチャクチャ良く見えるではないか!!
確かに最近、伝票の小さな字が見えにくくなっていた。
時計の文字盤に書いてある 「メーカー銘」 なども、、。
ショックを受けつつも、、、、私は長女の見立てで、出来るだけ 「オジイちゃんぽくないやつ」 を1つ貰って帰ったのだった。
うちに帰って、さっそく本を読んでみた。
「見える、、。 実際、こんなに見えていなかったとは、、。」
「何、それっ? イヤー、オジイちゃんみたい」
市場に同行しなかった次女にからかわれ、、、トイレに行った後、頭の上に乗っけたまま 「あれっ、眼鏡どうしたっけ?」 とやってカミさんに馬鹿にされ、、、しかし、もう手放せない。
その夜、眼鏡を頭に乗せたまま外出し、ユニクロに行った。
釣り用の防寒着をまとめ買いし、うちに戻ると、、、「あれっ?」
本を読もうと頭に手をやったが、、、眼鏡がない!
きっと試着を繰り返しているうち、店内のどこかに落としたのだろう。
「¥580」 の老眼鏡
いや、実際には大量に買い込んだGのおかげで、ジイさんは¥500にしてくれたのだが、、。
しかし、金の問題ではなく、、、不便で仕方ないのだ。
つい昨日まで、眼鏡無しで目を凝らして本を読んでいたのに。
「んー、、。」
夢中になって大量の眼鏡を買い込んでいたGの顔を思い出した。
「不便で仕方ないからまとめて〜」
その言葉の意味が、、、この夜、身に滲みて解ったのだ。
周りからは 「凄く楽だよ」 と勧められながらも 「まだ俺は大丈夫だ!」 と頑なに拒んできたのだが、、、ここに至って、遂に落城したのである。
きっかけになったのは、メキシコから一時帰国している 「G」 だった。
「G」 は私のダイビング屋時代の後輩で、後にアメリカでも一年余り一緒に暮らした相棒。
もっとも後輩とは言ってもトシは一つしか違わないから、筋金入りのオジサンだが。
昨年暮れの29日、このGと私の長女の3人で、府中の市場に向かった。
この東京卸売り市場には築地直送の魚をはじめ、食肉、野菜となんでも揃っている。
私が長女を連れて正月用の 「カニ」 の仕入れに行くと言うと、かつて10代の頃にこの市場のマグロ屋をやっていたGは、そこで働く昔の仲間に会いがてら同行したのだ。
年末ということで、市場の中はごった返していた。
カチンカチンに凍ったマグロを、電動ノコギリで切り捌く男。
一抱えもある肉の塊を、大きな庖丁で切り分ける男。
大声で叫びながら、大量の野菜を売りさばくオバちゃん。
その中の、知った顔の連中に話し掛けるG。
皆しばし手を止め、懐かしそうに肩を叩いたり、30年ぶりにひょっこり現れた男に目を丸くしたりしていた。
一通り用が済んだ私達が出口に向かって歩いていると、、、食品の通路の一角で、何故か大量の 「老眼鏡」 を売っている老人が。
なかなかスタイリッシュ(?)なプラスティック製の眼鏡だが、どれも「¥580」 均一。
長女の手を引きながら通り過ぎようとしたところ、Gの足が止まった。
なにやら片っ端からかけてみていたと思ったら、、、5本ほどまとめ買いしているではないか。
「そんなに買ってどうすんの?」 と尋ねると、
「海に出た時に落としたり壊したりしてすぐになくなっちゃうんだよ。 不便で仕方ないから、安くて気に入ったのをみつけるとまとめて買っておくんだ」 とG。
ちなみに25年ほど前に私が時計屋になった少し後、奴はメキシコに渡り、、、以来カリオルニア半島の 「ラ・パズ」 という港町で、ダイビングサービスを運営している。
また、「クジラ」 をはじめとする海洋生物の生態の研究・撮影をライフワークにしていて、、、この数年NHKなどの海洋番組の映像を観ると、殆どと言っていいほど登場するようになったのだ。
「中島君も掛けてみたら? オジサン、とっくに老眼入ってるでしょ?!」
そうGに言われて、、、 「ものは試し」 と掛けてみた。
すかさず売り手のジイさんが、小さな字の並んだ何かの説明書のようなものをよこす。
「ガーン!」
ムチャクチャ良く見えるではないか!!
確かに最近、伝票の小さな字が見えにくくなっていた。
時計の文字盤に書いてある 「メーカー銘」 なども、、。
ショックを受けつつも、、、、私は長女の見立てで、出来るだけ 「オジイちゃんぽくないやつ」 を1つ貰って帰ったのだった。
うちに帰って、さっそく本を読んでみた。
「見える、、。 実際、こんなに見えていなかったとは、、。」
「何、それっ? イヤー、オジイちゃんみたい」
市場に同行しなかった次女にからかわれ、、、トイレに行った後、頭の上に乗っけたまま 「あれっ、眼鏡どうしたっけ?」 とやってカミさんに馬鹿にされ、、、しかし、もう手放せない。
その夜、眼鏡を頭に乗せたまま外出し、ユニクロに行った。
釣り用の防寒着をまとめ買いし、うちに戻ると、、、「あれっ?」
本を読もうと頭に手をやったが、、、眼鏡がない!
きっと試着を繰り返しているうち、店内のどこかに落としたのだろう。
「¥580」 の老眼鏡
いや、実際には大量に買い込んだGのおかげで、ジイさんは¥500にしてくれたのだが、、。
しかし、金の問題ではなく、、、不便で仕方ないのだ。
つい昨日まで、眼鏡無しで目を凝らして本を読んでいたのに。
「んー、、。」
夢中になって大量の眼鏡を買い込んでいたGの顔を思い出した。
「不便で仕方ないからまとめて〜」
その言葉の意味が、、、この夜、身に滲みて解ったのだ。